仕事を終えた金曜日の夜。
東京駅から東海道新幹線で小田原まで行き、箱根登山鉄道に乗り換える。

箱根湯本までは小田急の車両、そこから先は登山鉄道の車両に乗る。

大平台で下車し、温泉宿『箱根翠泉』にチェックインした。
ここは、温泉宿にありがちな重い食事がなく、仲居さんとの煩わしい会話もない。

それでいて、和室でい草の香りに包まれながら寝たり、森に囲まれた露天風呂に浸かれたりと、温泉宿の醍醐味を味わうことができる。
仕事の疲れを癒し、翌朝チェックアウトした。

大平台から、強羅方面の列車に乗る。

走っている車両は、赤色を基調としている。
スイスの山岳鉄道・レーティッシュ鉄道に倣ったカラーリングだ。

新型車両「アレグラ号」は、窓が大きい。景色がきれいに映り、光をたくさん取り入れられて車内が明るいという利点がある。

それ以外にも、40年ほど前の車両も走っている。

さらには、100年以上前に製造された車両・モハ1形を目撃した。
新しい車両にはない、風格や威厳が感じられる。
製造された時代は、様々だ。
強羅で、スイーツを食べたり箱根登山ケーブルカーに乗ったりした。

この駅は、とても賑やかだ。
駅の周りの店に行く人、バスやケーブルカー乗り場で待つ人、歩いて宿や観光スポットに向かう人。

こんなに人が多い標高541mの地点は、珍しいのではないか。
そう思いつつ、箱根湯本方面の列車に乗った。

列車は、下りながらカーブしていく。
彫刻の森に停車する。

ホームの壁には、彫刻の森美術館のイラストが描かれている。
発車すると、列車はやや急な下り坂を走っていく。
道路を挟んで、美術館の敷地がある。

屋外にあるため、一部の作品が車内からも見える。
何だか得した気分だ。
とはいえ、次来たときはちゃんと鑑賞したい。

列車は、森の中の下り坂を行く。

走った後のレールが、濡れている時がある。
レールの磨耗防止のために、車両から撒かれた水だ。

大きくカーブを描く下り坂を走る。

坂に架けられて両端の高さが違う橋を渡る。
平坦なエリアはほとんどない。

宮ノ下で、上りの車両と列車交換を行う。
駅のホームは、斜めだ。

発車して、カーブの多い坂を下っていく。

やがて、仙人台信号所に差し掛かる。
一旦停止して、再び走り出す。

下り坂、トンネル、また下り坂。

線路がV字に分かれる所に差し掛かり、列車が停まる。

上大平台信号所だ。
ここでは、スイッチバックを行う。
停車中に、運転士と車掌が走って入れ替わる。

しばらくして、対向の列車が隣に並ぶ。

進行方向が反対になり、下り坂へと進んでいく。

列車は、朝も利用した大平台に到着する。
この駅もまた、スイッチバックを行う地点だ。
ホームは日本のレールを囲むように、コの字を描いている。
この構造は利用者のためでもあるが、運転士と車掌を入れ替わりやすくするためでもある。

駅に隣接しているのは、温泉宿でもお土産屋でもなく、「便利屋」だ。
「便利屋 小次郎」は、不用品の片付けサービスを行っている。
目的は引越しだけでなく、夜逃げでもいいらしい。
温泉地なのに、地元民向けの商売(それもかなり特殊)の広告があるのは、意外性を感じる。

次の塔ノ沢までの間には、信号所兼スイッチバック地点の出山信号所がある。

この路線では、計3回も進行方向を転換する。

険しい山を登るための構造だ。

トラス橋を渡り、トンネルを抜ける。
塔ノ沢に着く。

この駅は、深澤銭洗弁天とくっついている。

また、駅の下を川が流れていて、常に水の音が鳴り響く。
小さいながらも、趣のある駅だ。

列車は坂を下り、箱根湯本に着く。
登山鉄道の車両は、ここまでしか乗り入れていない。

ホームからは、石垣山と早川、行き交う人々が見える。
温泉街らしい、レトロで楽しい雰囲気が漂っている。

ここから小田原までは、勾配はあるものの、普通の町並みが広がっている。
箱根湯本は、非日常と日常の境目の駅と言える。

箱根登山鉄道は、様々な年代の赤い列車が、急な坂とスイッチバックを走る路線だ。
2024年5月乗車